Sustainable
Tourism

養殖とは、
海に寄り添うこと。

鳥羽市浦村町在住養殖漁業者

浅尾大輔 / Daisuke Asao

profile
大阪生まれ。結婚を機に浦村に移住。牡蠣養殖、ワカメ養殖、アサリ養殖、 アカモク加工などの漁業、 焼きガキ屋経営。農林水産省主催第 52 回農林水産祭式典で、史上最年少 で天皇杯を受賞。

一次産業は面白い、海はすごい

高校を卒業したあと、やりたいことを探すために自転車などで日本中を数年間放浪しました。いろんなところで飛び込みの仕事をしているうちに、一次産業がかっこいいなと思って。自然の力をもらいながら、何かを作ったり、食べてもらうことをやってみたいと考えるようになりました。漁業を始めたのは、妻が鳥羽の浦村出身だったので、縁があってこの町に移住することになったのがきっかけです。当たり前だけど、海って広いですよね~。干満差が2mくらい違ったりして、ものすごいパワーがあふれてる。海そのものが魅力的な資源です。

養殖は、海と相談しながら知恵や工夫を加えること

妻の親戚が牡蠣養殖をしていたので手伝い始めたんですけど、これがまた興味深くて。どうやって育ってるの?餌はなに?大きさに違いがあるのはなんで?どういう条件ならもっと美味しくできるの?どういう手間のかけ方が考えられるの?と、先輩に聞いたり、自分で研究したり、いろいろ試すようになりました。ちなみに牡蠣、ワカメ、アサリ、アカモクとも餌を与えない「無給餌養殖」というやり方をしています。海自体に栄養があるから、海に教えてもらいながら、海と相談しながら、人間の知恵や工夫を加えていく感じ。牡蠣はホタテの殻に牡蠣の赤ちゃんを付けて育てるんですけどそのタイミングを見計らったり、牡蠣はここ、ワカメはここと、育ちやすい場所を見極めたりします。

狙い通りの牡蠣を作るのが、腕の見せ所

漁師は天然ものを獲りますが、養殖漁業者は自分たちで育てるので農業的な要素が大きいんですよね。海の中でそれぞれが畑を持っているような感じかな。毎年7~9 月頃に赤ちゃんを付けるのをして、10 月にロープに通して釘で止めて、1 年後が収穫です。牡蠣を上げるのは最高に面白いですよ~。大きく育った牡蠣が船の上に山盛りになると、ニヤニヤが止まりません(笑)。例えば殻を大きくしたい、貝柱を大きくしたい、甘味を増したい、身をふっくらさせたい、半透明の身を作りたいとか、どんな牡蠣が作りたいかという狙いがいろいろあって、それを達成するのが腕の見せ所なんですけど、想像通りにできると「よっしゃ!」となります。

独自の文化や風習がある浦々の地域

浦村は地域によって個性があって面白いところです。リアス式海岸だから入り組んでて、昔は道路もなかったから独自の文化が育ってきた。距離としたら近いのに方言も、魚の呼び方も、お祭りの内容も、ぜんぜん違ったりします。例えばいま自分が住んでいる地域は、大晦日に豆まきをするんですよね。出世魚の尻尾で顔を叩かれるという儀式があるんですけど、そうすると悪霊を祓えるという意味があるみたいです。あとお正月に自宅のドアは他人に開けてもらうという風習もあって、青年団が端から家を回ったりします。

男子は 14 歳で成人式、女子は 17 歳でもらわれていく !?

青年団には 14 歳になった男の子が入れます。お盆の時期に入団式があって、このときもオリジナルの掛け声があったり、歌があったりしますが、ちょっとここでは言えない内容かな(笑)。あとこの地域では、女の子は 17 歳になったら、もうひとり親を見つけます。「かねつけ親」「かねつけ子」と言って、擬似的な親子関係を結ぶ風習なんですけど、地域的に海で仕事をしている人が多いので、もし自分たちに何かあった場合はよろしく頼む!というしきたりです。宴席を設けて契りを交わす家もあったり、「かねつけ親」は親として結婚式に出席したりもするので、自分の結婚式のときも妻の両親席には 4 人が座っていました。

漁村アクティビティをぜひ!

場が静まるのが好きじゃないんですよね。いつもみんなで楽しんでいたいし、盛り上がっていたい。人って全員持っているスペックが違うじゃないですか。得意なことも、苦手なことも、能力もバラバラで。だからいろんな人と絡みながら、いろんなことをやるのが好きなのかもしれない。生業としての漁業ももちろん好きだけれど、漁村アクティビティも楽しい。2019 年に浦村に「Anchor. 漁師の貸切アジト」という宿泊施設ができたんですけど、「牡蠣イカダクルージング」「ワカメ刈りクルージング」「アカモク刈りクルージング」「アサリ養殖体験ツアー」「漁船フィッシング」「漁船クルージング」などのプログラムに協力しています。子どもも大人も顔つきが変わるくらい楽しんでくれるのを見るとほんとうにうれしい。いい意味で磯くさいというか、いままでにはない観光や宿泊体験ができるので、ぜひ来ても
らいたいです!

漁村を尊重しながら、新しい試みを。

ちょっと悪い言い方になるかもしれませんが、漁村は秘密結社みたいな一面があります。自分たちのコミュニティがあって、他の地域から移住してくる方に対して、手放しでウェルカムというムードは少ないかもしれない。自分たちでサイトを運営したり、SNS で発信をすることも多くはないです。理由は、企業の目線よりも家業の目線が大きいからかも。3 代、4 代、5 代と続いてきた家業を守りたいのは当然なので、そこは理解して尊重したうえで、新しいことにも挑戦していかなければ地域全体が廃れてしまいますよね。だから船上バーのようなイベントを主催してみたり、子どもたちにアサリ養殖やアカモク加工の体験授業をしたりして、環境教育とか食育に取り組んだりもしています。あとは水産と福祉の連携にも力を入れていきたいので、牡蠣の稚貝を付着させるためのコレクター作りを地元の障害者施設にお願いして一緒にやっています。

自然の栄養剤「ケアシェル」で、海を守る

ケアシェルというのは、牡蠣の殻を粉末にしたものと、海水に含まれる水酸化マグネシウムを混ぜて作った天然の栄養剤で、アサリを代表とした養殖や漁礁として使われているものです。全国的にアサリは減っているのですが、ケアシェルを使えば安心・安全なアサリが養殖できます。アサリの成長が速い、養殖のプロセスが最小限、繰り返し使えるなど、生産者に対してのメリットはたくさんありますが、さらにいいのは地球環境にやさしいことですね。ケアシェルの成分は、牡蠣の殻と水酸化マグネシウムという海から産出されたもので、セメントなどの化学物質は一切使っていないので、海に負担がありません。ケアシェルを使ったアサリの養殖方法を広めるために、年間数十件以上の視察受け入れていますが、漁業は豊かな海があってのものなので、こういう活動には引き続き力を入れていきたいです。

伊勢湾と熊野灘が交わる浦村の海が、浅尾さんの職場
2021/11/10

鳥羽から新しい観光をつくろう

漁業を活かした観光に力を入れている鳥羽市では
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鳥羽市を一緒にワクワクさせていくアイデアをお待ちしています。