Universal
Tourism

アートの力で
地域を元気に。

東京と鳥羽市小浜町の二拠点女子美術大学芸術学部准教授・アーティスト

リンダ・デニス / Linda Dennis

profile
1963年、オーストラリア・ブリズベン生まれ。インスタレーション、ビデオ、パブリックアート、コラボレーションプロジェクトを創作活動における重要な表現手段とし、東京と三重を拠点に活動。日本で数々の個展・グループ展に参加しているほか、オーストラリア、イギリス、中国、ニュージーランドでのグループ展にも参加。

陶芸から創作の世界へ

オーストラリアの大学では作業療法を専攻し、作業療法士として2年間働いたあと、ワーキングホリデーで日本に来ました。インターネットも携帯電話もない時代で、日本語も話せないまま日本中を自転車で旅していたので、いま思えば親も心配だったことでしょう(笑)。もともと日本の文化に惹かれていたこともあり、2年半、佐賀県の有田市に住んで焼き物を学んだことが創作の道へ進んだきっかけです。この頃に祖母と母が来て、初めて鳥羽に行ったんですよね。3人でミキモトの真珠島や海女さんのショーなどを見たことを覚えています。

陶芸だけではなく日本の美術全般が好きではあったものの、まだ日本語もスムーズではなく、当時の実力では日本の美大に入るのは難しかったので、オーストラリアの美大に入るために帰国しました。結局は交換留学のプログラムを利用して、多摩美術大学で学ぶことができたので、その頃からほぼずっと日本に暮らしています。そこから東京藝術大学に入学を決め、2010年に大学院の博士課程を修了するまで、7年間通いました。上野の古いアパートに住み、英語を教えるバイトをしながら、アイデアを考えてはそれを実現する材料を探して、インスタレーションを作って‥という充実の日々を過ごしました。

「touch」を創作のテーマに

2000年から創作のテーマとして「touch」を掲げています。自分の人生を振り返ると、手を使ったリハビリを行う作業療法士の仕事に始まって、土に触れてろくろを回して焼き物を作ってきたことなど、触れるということが原点にあると思いました。世界を捉えていくときに目で見るだけではなくて、できる限り近づきたい。触りたい、感じたいと強く思います。touchするという行為を通して、そのあとに湧き上がるいろんなことに、とても興味を感じます。

2011年の震災には、大きなショックを受けました。人と触れ合うという意味においても「touch」の大切さを痛感したことから、芸大の学生や、海外のアーティスト、特にアートに関わっていない人までを幅広くつなぐゼミを立ち上げました。わたしが大切にしていることのひとつに、さまざまなものを結びつけることで、思いがけないものを生み出したいということがあります。100年以上前の話ですが、日本の陶芸家の濱田庄司さんと、イギリスの陶芸家バーナード・リーチさんが出会って、ふたりでイギリスに東洋風の登り窯を築きました。そこに国内外のさまざまな陶芸家が集まり、たくさんの優れた陶芸家が生まれた。ふたりのフレンドシップが、陶芸の世界を変えた。そういうコラボレーションがとても素敵だと思うので、2014年にはTouch base Creativeネットワークを設立しました。ここは、人やアイデアや情報が有機的につながるプラットフォームとして活用されています。

三重との出会い

三重とのご縁は、知人からの紹介で三重県立美術館での個展のお話をいただいたことです。せっかくなら三重の伝統や文化にちなんだ素材や技法で作品を作りたかったので、伊勢や鳥羽でアトリエを探していたところ、紀北町長島にて漁網に出会ったんです。多くのより合わせた糸で作られた魚網を自分でも編んでみて、人間の絆のようなものを感じて、三重県立美術館での個展にも漁網を使った作品を出展しました。テーマは「touch」ですが、美術館という場所柄、実際に作品に触ることは難しいので、ここでは“触りたいけど触れないというテンション”を追求しました。

このとき、紀北町長島の網屋さんからのお声がけで、「海の博物館(通称:海博)」でも同じタイミングで個展を開催するということになったんです。海博にも漁網を使った作品を準備しましたが、こちらは屋外展示だったこともあり、中に入ったり、座ったり、実際に「touch」できるものを作りました。海の文化をテーマにしている施設なので、海女さんがアワビやサザエを集めて入れるような大きなバッグをイメージして、漁網を切ったりつないだりして、造形を作りました。

鳥羽の魅力は、コミュニティと海

紀北町長島でアートと地域起こしの勉強会を依頼されたことがあったのですが、ぜひそのような活動を鳥羽でしてほしいとのお声がけをいただいて、2018年から鳥羽市に拠点を持っています。鳥羽の魅力はコミュティの在り方ですね。人と人とのつながり、人と場所とのつながりが面白い。例えば学生との交流授業をしている安楽島では、毎年19歳になる同級生が盆踊りの世話役をするという慣習があります。寄付金集め、音頭の練習、踊りの練習、櫓を立てたり、提灯の飾り付け、踊りが終われば掃除まで済ませて、3日間の盆踊りを取り仕切る。歴代の盆踊り委員の写真が貼ってあるんですけど、チームワークがすごい。そういう文化がベースにあるからか、60代や70代の方たちも現役でイベントを企画したり実行したりとか、コミュニティのために動くパワーを持っていると感じます。

もちろん海女さんにも惹かれ続けています。女子美で教えているわたしにとって、海女さんは女性の生き方の一つのロールモデルのようにも思う。SDGsなんていう言葉がなかった頃から、海と共生する仕事のやり方をしていて、受け継がれている人間関係も素敵で、世界に誇れる文化だと思います。真珠も大好きですね。貝の中であんなに美しいものができるなんて、ほんとうに神秘的。そもそも海が好きなので、小浜町のスタジオの窓から島や船、蛸壺などの景色が見えるのもうれしいです。ちょっと港を散歩しながらコーヒーを飲むというのが、東京ではできない小浜ならではの日課ですが、夏は裸足になって砂浜で過ごす“アーシング”などもして、スロウな時間を楽しみました。

一方でコミュニティが強固なために、外の人が入りにくい一面は否めません。移住を推進する動きもあるし、空き家もあるのだけれど、“他所から来た人” という捉えられ方はするかもしれない。観光の面で言うと、airbnbみたいな外国人が気軽に泊まれる場所はとても少ないです。わたしが交流することの多い学生やアーティストは、お金がたくさんあることは少ないので、カジュアルな宿泊施設が充実したらいいなと思います。

アートで地域を盛り上げたい

2022年4月に准教授から教授になり、あと7年女子美で教えることになっています。去年は女子美で版画を専攻している学生が、安楽島町民とオンラインで交流した体験をもとに版画作品を制作してくれたものを、安楽島傳法院と鳥羽国際ホテルで展示しました。安楽島の市民グループとのコラボは3回目で、安楽島はとても大好きです。鳥羽の施設が場所を用意して、学生はアートを用意して、結果そこに人が集まってくれたり楽しんでくれたりしたらwin-winですよね。直接の交流が難しい時期でしたが、学生たちはいいものを作ってくれたなと思います。今年はカナダの学生が鳥羽市に来て、そこでの体験をもとに作品を制作して海博で展示をする予定になっているのですが、毎年こういうコースを作りたいですね。ディレクターを務めているARToba Art Netグループは、地域とのつながりを大切にしながら、地域のクリエイティブな文化を支える役割を果たすのことを目的にしているので、これからも柔軟にいろいろな団体や人を掛け合わせながら、アートを通して鳥羽の素晴らしさを表現し続けたいと思っています。

2022/03/24

鳥羽から新しい観光をつくろう

漁業を活かした観光に力を入れている鳥羽市では
この地でやってみたいプランがある方をサポートをします。
鳥羽市を一緒にワクワクさせていくアイデアをお待ちしています。